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ストレスと歯ぎしりの深い関係とその対策を徹底解説
こんにちは、松本市の歯医者、平沼歯科医院です。現代は「ストレス社会」と言われ、多くの人が日常的な緊張や不安を抱えています。その影響か、歯ぎしりに悩む人も増加傾向にあります。実は本人が自覚していなくても、成人の8割以上が程度の差はあれ歯ぎしりをしていることが明らかになっています。歯ぎしりは放置すると歯や体に様々な悪影響を及ぼすため、早めの対策が肝心です。本記事では、ストレスと歯ぎしり(専門用語で「ブラキシズム」といいます)の関係について、専門的な視点からわかりやすく解説します。歯ぎしりの原因や体への影響、セルフチェック方法から、効果的な対策であるマウスピース(ナイトガード)治療、そしてストレスの上手な管理方法まで詳しく説明します。歯ぎしりに悩んでいる方も、そうでない方も、ぜひ最後までお読みください。
歯ぎしりとは?ブラキシズムの種類
「歯ぎしり」とは、上下の歯を必要以上に強く噛み合わせたり擦り合わせたりする癖(口腔悪習癖)のことです。睡眠中や無意識下で起こることが多く、専門的にはブラキシズムと呼ばれます。ブラキシズムにはいくつかのタイプがあり、大きく3種類に分類されます。
・グラインディング(歯ぎしり型):上下の歯をギリギリと横方向に擦り合わせるタイプです。一般的に「歯ぎしり」と聞いて思い浮かぶもので、就寝中に起こりやすく、歯が擦り減ってしまいます。
・クレンチング(食いしばり型):上下の歯を強い力でギュッと噛み締めるタイプです。音が出ないため気づきにくいですが、昼夜問わず無意識に起こることがあります。歯や顎(あご)への負担が大きい点が特徴です。
・タッピング(カチカチ型):上下の歯を小刻みにカチカチと噛み合わせるタイプです。断続的に歯をぶつけて音を立てるもので、力の強弱は人によって様々です。
いずれのタイプでも、通常の咀嚼時よりもはるかに強い力が歯や顎にかかります。このため、長期間続くと歯だけでなく顎関節や筋肉、体全体に悪影響を与える可能性があります。
ストレスと歯ぎしりの深い関係(自律神経・心理学的視点から)
では、なぜストレスが歯ぎしりを引き起こすのでしょうか。その背景には自律神経や心理的な反応が関係しています。歯ぎしりの原因としてまず考えられるのが「ストレス」です。精神的緊張や不安など耐えがたいストレスを感じると、それを発散する方法の一つとして無意識に歯ぎしりをしてしまう場合があります。ストレスといっても心の問題だけでなく、ケガや病気による肉体的ストレスも含まれます。
生理学的に見ると、ストレスを感じたとき私たちの体は交感神経が優位となり、防御反応で筋肉が緊張します。例えば、恐怖や不安に直面すると体が硬直し、顎にグッと力が入ることがあります。これはヒトを含む動物が危険を回避しようとする本能的な反応で、緊張状態では無意識に食いしばりが起こりやすくなるのです。就寝中でも日中のストレスが尾を引いていると、眠りが浅くなり交感神経が高ぶって歯ぎしりを誘発する場合があります。
一方で、歯ぎしりそのものが身体の防御メカニズムである可能性も指摘されています。歯ぎしりをすると、脳内でβエンドルフィンやドーパミンといったホルモンが分泌されます。これらは鎮痛作用やリラックス作用があり、自律神経の興奮を鎮めてストレス反応を和らげる効果があります。つまり、歯ぎしりはストレスで緊張した心身を無意識に落ち着かせるための行為とも考えられるのです。もちろん、だからといって歯ぎしり自体を放置して良いわけではありません。あくまで体の緊張を和らげる一時的な手段であり、続ければ歯や顎への負担が蓄積してしまいます。重要なのは、ストレスそのものを適切にコントロールすることと、歯ぎしりによるダメージを防ぐ対策を講じることです。
歯ぎしりが体に与える悪影響
歯ぎしりを長期間放置すると、口の中だけでなく全身に様々な悪影響が現れます。その代表的な例を挙げます。
・歯の摩耗・損傷:歯ぎしりの強い力により、歯の表面のエナメル質がすり減っていきます。エナメル質が失われると内部の象牙質が露出し、歯が短くなったり欠けたりすることがあります。その結果、冷たい物がしみる知覚過敏が起きたり、歯にひびが入って割れてしまうこともあります。
・顎関節への障害:強い食いしばりは顎の関節にも大きな負担をかけます。歯ぎしりが続くと顎関節症(がくかんせつしょう)を引き起こし、口を開けるときに痛みが出たり、口が大きく開かなくなる、顎関節がカクカク音がする、といった症状につながります。
・肩こり・頭痛:意外かもしれませんが、夜間の歯ぎしりは首や肩の筋肉も緊張させています。就寝中に強く噛み締めることで首・肩周りの筋肉がこわばり、朝起きたときに酷い肩こりや頭痛の原因になることがあります。歯ぎしりが続くと慢性的な筋肉疲労から全身の倦怠感へと発展することもあります。
・歯周組織への影響:歯や顎に加わる過剰な力は、歯を支える歯茎や骨(歯周組織)にも悪影響です。特に歯周病を抱えている場合、歯ぎしりによる負荷で症状が悪化する恐れがあります。また歯と歯茎の境目に過度な力がかかることで、その部分がくさび状に削れて知覚過敏を招くこともあります。
このように歯ぎしりは単なるクセではなく、歯や顎、筋肉など体の様々な部分に負担をかけてしまうのです。しかし、裏を返せば適切な対策を講じることでこれらの悪影響を予防できます。次章では、自分が歯ぎしりをしているかどうかを確認するセルフチェック方法を紹介しましょう。
歯ぎしりのセルフチェック方法
歯ぎしりは多くの場合無意識下で行われるため、自分では気づきにくいものです。就寝中の歯ぎしりは本人は覚えていないことがほとんどで、音が出ないクレンチング(食いしばり)の場合は周囲から指摘もされず発見が遅れがちです。しかし、いくつかセルフチェックのポイントがあります。以下のような項目に心当たりがある場合、歯ぎしりをしている可能性があります。
・周囲からの指摘:睡眠中に「歯ぎしりの音がうるさい」と家族に言われたことがある。あるいは日中でも「歯を食いしばっているよ」と指摘されたことがある。
・朝の顎のだるさ:起床時に顎や口の周りが疲れて重だるく感じることがある。酷い場合、顎に痛みを感じることもある。
・歯の摩耗や欠け:鏡で見ると、歯の噛み合わせ部分が平らに磨り減ってツルツルになっている。また、虫歯でもないのに歯が欠けたりヒビが入ったりしたことがある。
・歯と歯茎の境目の傷み:歯の根元(歯と歯茎の境目)にくぼみができていたり、そこを指で押すとしみるような痛みがある(くさび状欠損・知覚過敏の兆候)。
・頬や舌の圧痕:ほおの内側や舌の縁に歯型の跡がついている(寝ている間や無意識に強く噛んでいるサイン)。
・無意識の食いしばり:集中して作業しているとき、ふと気づくと奥歯をグッと噛み締めている癖がある。リラックスしているときまで上下の歯を接触させてしまっている。
いかがでしょうか。複数当てはまるものがあれば、知らず知らずのうちに歯ぎしりをしている可能性が高いです。思い当たる方は一度歯科で相談してみることをお勧めします。次の章では、歯ぎしりへの具体的な対策として有効なマウスピース治療(ナイトガード)について説明します。
歯ぎしり対策にマウスピース治療が有効な理由
歯ぎしりへの対策として、歯科でよく提案されるのがマウスピースの装着です。就寝時に装着することで上下の歯が直接擦り合わないようにし、歯や顎を保護するための装置を特にナイトガードと呼びます。ナイトガードを夜間に使うことで、歯ぎしりによる歯の摩耗や破損を防ぎ、顎関節や咀嚼筋への過度な負担を和らげる効果があります。実際にナイトガードを使用することで歯や顎の骨を過剰な力から守り、肩こりなど全身への負担軽減にもつながるとされています。
マウスピース治療は対症療法ではありますが、現時点で歯ぎしりそのものを完全になくす確実な方法は見つかっていないため、非常に重要な予防策となります。「歯ぎしりを止める薬」は残念ながら無く、無意識の癖をゼロにするのは難しいのが現状です。そのため、まずは歯や体を守ることが最優先となります。ナイトガードを正しく使えば、歯ぎしり自体は起きていても歯が削れたり割れたりするのを防げますし、顎関節へのダメージも大きく減らせます。結果として、歯ぎしりによる痛みや知覚過敏の悪化を防ぎ、ぐっすり眠れるようになるケースも多いです。
マウスピースの種類と選び方(ナイトガードの紹介)
ひと口にマウスピースと言っても、いくつか種類があります。大きく分けると歯科医院で作るオーダーメイドのものと、市販されているセルフタイプ(自分で作る簡易タイプ)です。
歯科医院で作るナイトガードは、歯科医が患者さんの歯型を採って作製するオーダーメイドのマウスピースです。健康保険が適用されるため費用負担も比較的軽く、3割負担の場合でおよそ3千円前後と安価に作製できます。素材や硬さの違いによっていくつか種類がありますが、多く使われるのはハードタイプとソフトタイプです。
・ハードタイプ:硬いプラスチック(レジン)製のナイトガードです。強い食いしばりをしても穴が開きにくく耐久性に優れるため、歯ぎしりの力が強い方に適しています。一方で装着時にやや厚みや硬さを感じるため、違和感を覚える方もいます。また材料が硬い分、噛み合わせの微調整が難しいというデメリットもあります。
・ソフトタイプ:柔らかい樹脂(ポリエチレンなど)製のナイトガードです。弾性があり、装着時のフィット感が良く違和感が少ないのがメリットです。ただし素材が柔らかいぶん噛み切れてしまう恐れがあり、強い歯ぎしりの力には長期間耐えられない場合があります。比較的軽度の歯ぎしりや、ハードタイプに慣れない方に用いられることが多いです。
どちらのタイプが良いかは、歯科医師が歯ぎしりの程度や患者さんの顎の状態、装着感の好みなどを考慮して判断します。「強い歯ぎしりでハードタイプに穴が開いてしまう」というケースは稀ですが、もし穴が開くほどであれば素材をより厚くしたものに交換するなどの対応が可能です。一方、「ハードタイプは硬くてどうしても眠れない」という場合は無理せずソフトタイプに切り替えることもあります。いずれにせよ専門家の指導のもとで自分に合ったマウスピースを選ぶことが大切です。
なお、市販のドラッグストアやネットで購入できるセルフタイプのマウスピース(お湯で軟らかくして自分の歯型に合わせる簡易マウスピース)は手軽ですが、使用には注意が必要です。自己流で成形すると噛み合わせが微妙にズレることが多く、逆に顎へ負担を与えてしまうリスクがあります。人間の噛み合わせは非常に繊細で、わずかな狂いでも歯や顎に大きな影響を及ぼすため、専門知識を持つ歯科医師による調整が欠かせません。市販品を長期間使い続けると歯ぎしりの防止どころか症状を悪化させる恐れも指摘されています。そのため、歯ぎしりに悩む方はなるべく歯科医院で適切に調整されたマウスピースを作ってもらうことを強くおすすめします。
歯科医院での対応と治療の流れ
では、歯ぎしりが疑われる場合に歯科医院ではどのような対応・治療が行われるのでしょうか。その一般的な流れを説明します。
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問診・診査:まず歯科医師が現在の症状や悩みを丁寧に聞き取ります。「朝起きると顎が疲れている」「家族に歯ぎしりを指摘された」などの情報は重要な手がかりです。またお口の中を検査し、歯の摩耗の程度、歯のヒビや欠け、歯茎の状態、舌や頬の粘膜の跡など歯ぎしりの痕跡を確認します。必要に応じてレントゲンや噛み合わせの検査を行い、顎関節や歯根の状態もチェックします。
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診断と原因の分析:検査結果から歯ぎしりの有無や程度を診断します。一般には問診と口腔内の所見で診断は可能です。その上で、歯ぎしりの主な原因を探ります。例えば明らかな噛み合わせの異常があればそれが誘因かもしれませんし、日中のストレスが強い生活環境であれば精神的要因が大きいかもしれません。場合によっては睡眠時無呼吸症候群など他の疾患が隠れていないか、医科と連携して調べることもあります。
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治療方針の説明:歯ぎしり自体は完全になくすことが難しいため、基本的には被害を最小限に食い止める対策が中心になります。具体的には前述のナイトガード(マウスピース)の作製・装着指導が主な対応です。歯型を取り、患者さん個々に合ったマウスピースを作製します(完成まで数日〜1週間程度)。出来上ったら再度来院し、実際に装着してみてフィット感や噛み合わせを確認します。必要があればその場で微調整し、正しく適合させます。マウスピースの装着に加え、歯ぎしりによって生じた歯のトラブルにも対処します。例えば欠けた歯があればコンポジットレジンというプラスチックで補修したり、ぐらつく被せ物があれば付け直したりします。知覚過敏が強ければ薬を塗るなどの処置も施します。
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原因へのアプローチ:歯ぎしりそのものの直接的な治療法はありませんが、原因に応じたアプローチを行います。噛み合わせの問題が大きい場合は、高さの合っていない詰め物を調整したり、必要に応じて歯列矯正(矯正治療)を提案することもあります。噛み合わせが改善されれば歯ぎしりのリスクを減らせるからです。ただし、歯ぎしりの原因がストレスである場合は矯正では解決しないため、その場合はストレスマネジメントが重要になります。また顎関節症を併発している場合は、顎の痛みに対する治療(消炎鎮痛剤の処方や開口練習などのリハビリ指導)も並行して行います。症状が重いケースでは、ボツリヌス毒素の顎筋への注射(筋肉の力を弱める治療)を検討することもあります。
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経過観察とサポート:マウスピース装着開始後は、数週間〜数ヶ月ごとに定期チェックを行います。マウスピースがすり減っていないか、噛み合わせに違和感が出ていないか、歯や顎の症状は改善しているかを確認します。マウスピースは消耗品なので、定期的なメンテナンスや必要に応じた作り直しが必要です。並行して、患者さん自身が日常生活でできるセルフケア(後述するストレスの緩和法や顎の筋肉のリラックス法など)についても助言します。
以上が一般的な歯科医院での対応と流れです。もちろん症状の程度や患者さんの状況によって多少異なりますが、「マウスピースで歯を守りつつ、原因にもアプローチする」と覚えておいてください。
ストレス管理の重要性(生活習慣の見直しやリラクゼーション法)
歯ぎしり対策にはマウスピースが有効ですが、根本原因であるストレスを減らすことも同じくらい重要です。ストレス管理や生活習慣の改善によって、歯ぎしりの頻度や程度が軽減するケースも多いのです。日頃から強いストレスを感じたり溜め込んだりしている人は歯ぎしりをしやすい傾向があります。また睡眠の質が悪い人も歯ぎしりが増える傾向があります。飲酒や喫煙など睡眠に影響を与える習慣も要注意です。そこで、以下のようなポイントに気を付けてみましょう。
・自分なりのストレス発散法を見つける:運動や趣味に打ち込む、友人とおしゃべりをする、音楽や入浴でリラックスするなど、心の緊張をほぐす時間を意識的に作りましょう。「ストレスを感じても溜め込まない」ことが大切です。
・睡眠環境を整える:寝る前にスマホやPCを長時間見ない、カフェインやアルコールを控える、就寝前にぬるめのお風呂に入ってリラックスする、といった睡眠衛生を意識しましょう。深い睡眠がとれると歯ぎしりも起こりにくくなります。
・顎や首の筋肉のリラクゼーション:日中緊張しがちな顎の筋肉をほぐしてあげることも効果的です。例えば頬やこめかみのマッサージは簡単にできておすすめです。指の腹で側頭部や顎関節の周囲を円を描くように優しくマッサージすると血行が良くなり筋肉の緊張が和らぎます。寝る前に蒸しタオルで顎を温めるのもよいでしょう。
・日中の食いしばりに注意する:仕事中や運転中など、集中するとつい歯に力が入っていないでしょうか。ふと気づいたときに上下の歯を離し、口周りの力を抜く習慣をつけましょう。「いつでも下顎はリラックス」が合言葉です。歯ぎしり対策として自己暗示療法も有効です。考え事をしているとき「今自分は歯に力を入れていないかな?」と意識し、入っていたら抜く。これを繰り返すことで無意識の癖に気づきやすくなります。
こうしたストレッチやマッサージ、習慣の見直しによって、歯ぎしりを完全に止められなくとも症状の緩和が期待できます。また歯ぎしり以外にも心身の健康に良い影響があるため、一石二鳥です。大切なのは、「歯科での治療」と「日常生活でのセルフケア」の両輪でアプローチすることです。
まとめ:早めの対策で歯と体を守りましょう
ストレスと歯ぎしりにはこのように深い関係があり、現代人にとって他人事ではない問題です。歯ぎしり自体は無意識の現象とはいえ、適切な対策を講じれば歯や体への悪影響を防ぐことができます。夜間のマウスピース装着は歯ぎしりによるダメージを大幅に軽減し、安心して眠れる環境を整えてくれます。さらにストレスのコントロールや生活習慣の改善によって、歯ぎしりの頻度自体を減らすことも十分可能です。
「もしかして自分も歯ぎしりしているかも?」と思い当たる節があれば、ぜひ早めに歯科医院で相談してみてください。歯科医師による適切な対応とご自身のセルフケアの両方で、歯ぎしりは怖くありません。実際に、マウスピースによる予防と日々のケアで歯を長持ちさせている方はたくさんいます。大事なのは放置せず行動することです。ストレス社会を上手に生き抜くためにも、歯と体を守る歯ぎしり対策を今日から始めてみませんか。早めの対策で、大切な歯を末長く守り、毎日を快適に過ごしましょう。
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